椿の花が咲きました。

椿の花が咲きました。
花が丸ごと落ちるから母は苦手と言っていましたが、
母の母、祖母は椿が好きでした。庭にはよくそんな椿の首が落ちていました。

昔、玄関前に年寄りの梅の木があって、その脇に背の高い棕櫚の木がありました。
そのころ子供の私は、棕櫚をバナナだと思っていました。
その奥に躑躅がたくさん植えてあり、その先に池があってその奥に松が数本、
そのあたりに、何やらわからない高い木があって、足が丁度かけやすい位置にあったので
昇っては、怒られていました。
隣の敷地の境には桜の木がありました。毛虫が付くと言われて切ってしまったのも
ずいぶん昔のことです。家の裏手には竹藪があり、そこは私の秘密基地でした。
今は、竹藪に家が建ち、敷地の半分以上は隣家のものです。
残っているのはバナナだと思っていた棕櫚の木と躑躅が数本、そして
敷地の端っこに残った椿の木ぐらいです。

その椿の木の下で祖母は私の帰りを待っていました。
遠くにいた私は数年に一度、数ヶ月に一度母に
「今から帰るよ」と連絡を入れると、祖母はその椿の木の下で
竹ぼうきを持って立っていました。
自然を装いながら。

今年も椿の花が咲きました。
祖母は椿が好きでした。
私は祖母が好きでした。

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