コロナ期動物話5 猫物語2 猫の家族

思春期に入ると家猫のことなど忘れてしまい、自分自身が野良猫になっていました。
だから家に猫がいただろうか、いなかったのか?上手く思い出せません。
二十代の前半、結婚少し前からたまに家に帰っていたころいた猫は、
クロベ、トラコ、マーマ、ター。本名は黒、虎、松、竹。
あまりにも安直なネーミングは模様だけでは、たぶんだぶりが出てしまうため
めでたい名前でも付けとけ、という私の母親の絶妙?なセンスの賜物です。

クロベが父親でトラコが母親、マーマが娘でターが息子。
トラコは賢くてクロベに「あの、おかずをお膳の上から盗ってきなさい」
と命令して、クロベが人間に見つかるとトラコは「私何も知りません」という顔でいましたが、
上手く盗めると、いつもトラコが食べ、それをクロベは、そばで黙って見ていました。

クロベとトラコの間に虎模様の息子と真っ黒な毛の娘が生まれました。
トラコは子どもよりも自分が大切なタイプで、おっぱいを飲ませていてもお腹が空くと
「ゴハンちょうだい、私が先だ!」みんなを押し退けて食べていました。
クロベは子どもたちが大好きで、よく舐めていました。
なかでもマーマのことはお気に入りで、いつも抱えて舐めていました。
外で物音がするとクロベはすぐに飛び出し子どもたちを守ります。
これが常態化していました。

二年ぐらい経った頃でしょうか。トラコは仔猫マリオを産みました。
トラコはマリオの面倒を見ないので妻が母親がわりに育てることになりました。
トラコは疲れていたのでしょう。
しばらくして玄関のタタキで血を吐いて死んでいました。
「きっと毒を飲まされたんだ」と家族で話しました。
その頃、ターは家を出ていって、忘れたころに帰ってくるような生活になっていました。
依然、クロベはマーマを抱えて舐めていました。

ある日、クロベは片目を落として帰って来ました。
きっと車にはねられたのでしょう。
家の後ろの道路はダンプカーがたくさん走るようになっていましたから。
もう片方の目も白濁していましたが、その目も徐々に視力が無くなり、
しばらくすると両目とも見えなくなりました。

その頃近所にはたくさんの猫がいました。
完全に失明しているクロベでしたが、外で猫の声がすると、
襖やガラス戸に、ぶつかりながら飛び出して行きます。
盲目のクロベは筋肉が盛り上がり狸のように大きくなっていました。

妻が初めて我が家を訪れた時、廊下の奥に黒い狸の置物があって
変な家だなぁ、近づいても動かないので、よくよく顔を近づけたら
猫だったのでびっくりした。と言っていました。

そのころは外から帰ってきたクロベをマーマがよく舐めていました。

そして、クロベもある日から帰って来なくなりました。

それから、弱っぴーのマーマが少しずつ強くなって行きます。
たまに私たちが連れ帰るマリオを守るためでしょう。
外で猫の声がすると唸るようになり威嚇していました。
そしてマーマはよくマリオと遊んであげていました。
とても可愛がっていたのです。

マリオがいなくなった後もマーマは父親似の優しい猫でした。
新しくやってきた猫たち、ピリカ、ボーズ、ノン、ロク みんなよくめんどうをみました。
でも歳をとりカリカリが食べられなくなってマーマ専用の缶詰をあげていると
それを子猫たちが先に食べちゃうので
歯の抜けた口で小さい猫たちの頭を、後ろからよくかじっていました。
子猫たちは、御構い無しで食べ続けて、頭がベトベトでした。

娘が生まれたのも、その頃です。
娘のことも舐めていました。
そんなマーマの最期はコタツの中で眠るように硬くなっていました。
黒い毛に白髪が混じりカサカサのボサボサでした。
残った猫たちはその日、みんな静かでした。

どんな猫も小さい猫が家にやってくると、その猫を守ろうと強くなります。
時には満身創痍、闘うこともあります。
本能でしょうか。
人間も見習わなくては、と思うことしばしです。

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