ニ、三羽 十二、十三羽
ギター文化館の丘は入口とは逆に北側に面して建っている。
くるみコーヒーは、その北面に位置し、難台山、吾国山を一望できる場所にある。
太陽を背に受け右から左へ、お日様が移動する。
前面に土手があり、東側に突き出た高台が緩やかな斜面になり、下の小径へとつながる。
途中、左手には柿畑の間に薮がある。西側は下の柿畑を見下ろす鋭い斜面。
東側の緩やかな斜面につながる、くるみの木のある通路を通り、斜面の中ほどには、
薔薇や椿、ブルーベリーや小さな草花が植えてある。
高台の上は桜、萩、栗の木。そして高台の上部は小山 になっていて、全体をハーブが覆う。
鋭い斜面の西側には野バラが自生し、そこにつながる通路の途中の斜面には、
青い花と青い花を付ける蔓性の植物が延びている。
きっと、来年の今頃は、ここらは日光キスゲの花の黄色も増えるだろう。
この時期は急激に色彩が動き、景色が変わる。
そんな中、十五分ほど散歩をした。
光る草艸の露、朝の丘は微生物と鳥の世界。
鶯の声が聞こえるので、真似して口笛を吹いてみる。
チチチ、チチチ、ピロピロ 空が騒がしい。
声は聞こえるが姿は見えない。雀か?
ヒヒヒョ、ヒヒヒョ、ギーギー、別の声も聞こえる。
雀がニ羽、三羽、低空をくねりながら横切る。
空の高いところに黒い小さな影が見える。
姿は小さいが、声は大きい。
水の入った田圃に白い鳥がニ羽、蛙の声が近くで、遠くで。
下の道路を通る車はない。
ギター館の白い壁から突き出た白い庇の裏から電話のような鳴き声。
チチチ、ツウル、ツウル、燕が一羽。
首を上げ過ぎたか、上を見すぎた。ボーッとする。気温もだいぶ上がってきた。
目が霞む。ピーピー、キュルキュル、ギー。
燕の腹の白さが眩しい。
後ろからフイに声を掛けられた。
「鳥がお好きなようで」
でっぷりと肥った、坊主頭の男は茶色のTシャツに白の半ズボン。
私の肩越しから、顔を突き出し笑いかける。
「あのツバメは、いつもあそこなんですよ」
なんとも気さくで遠慮がない。
「もしよかったら、お茶でも飲んでいかれたら」
と、男。
朝露の光で輝いていた葉っぱは、微かな風で別々の方向に乱反射している。
箱柳の葉っぱがカラカラ、コソコソと話しはじめ
もう、鳥たちは上機嫌で、そこいらじゅうを、転げまわるように遊んでいる。
鼓動千回、碧色の朝 、をかしき初夏の幻、日頃稀なる心なりけり。
「ほら、其処の薮の中へ、さ、さ どうぞ、どうぞ」
でっぷり漢のほっぺたは、まあるく紅くちょっと汚れていた。
泉鏡花へのオマージュ です。
この続きは本編「ニ、三羽 十二、十三羽」へ